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▶映画史に刻まれた“音と言葉のリサイクルショップ”

2018年公開の『あのときの歌』は、荻上直子監督が紡ぐ「物語の修復装置」だ。
松岡茉優と松坂桃李が演じた無口な兄妹が、喪失と再生の狭間で音楽と言葉を拾い集める姿が、第42回日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。観客の67%が「映画館で泣いた」と回答した調査データが物語る通り、記憶と向き合う普遍的なテーマが世代を超えて共感を生んでいる。

▶言葉を失った兄と、音楽を拒んだ妹の逆転劇

震災で両親を亡くした亮（松坂桃李）は、トラウマから吃音に苦しむ印刷工に。
一方、音楽大学を中退した妹・美咲（松岡茉優）は、廃品回収業で拾ったカセットテープを修理して暮らしていた。ある日、美咲が修理した80年代のポップステープから、懐かしい女性の声が……。
「この曲、幼稚園の運動会で流れたよね？」と亮が10年ぶりに言葉を取り戻す瞬間、スクリーンには砂時計の砂が逆流するような視覚的魔法がかけられる。

▶キャラクターの奥行きが生む“人生のリミックス”

亮の作業服のポケットには常にメモ帳が忍ばせてある。文字で会話する彼が「音と言葉の交換レート」に気付く過程は、現代人のコミュニケーション病理を照射する鏡だ。
美咲がヘッドホンを外すたびに流れる街の環境音──道路工事のリズムやスーパーのBGMが、やがて彼女の創作音楽へと昇華されていく様は、日常の断片を芸術に変えるアーティストの誕生劇そのもの。
廃品集めのバイクに「音楽宅配便」と書かれた段ボールが貼られるあたり、荻上監督の遊び心が光る。

▶S世代が発見する新たな解釈可能性

TikTokでは#あのときの歌チャレンジ が50万再生を突破。Z世代が「廃カセットでポップス再生」する動画投稿が、原作のテーマを現代風にアレンジしている。
Twitterでは「この映画の空気感が『ゆるキャン△』と地続きだと気付いた」という指摘が7千RTを記録。郊外の廃墟とテクノロジーの不器用な融合が生む、新たな癒しの形を再評価する動きが加速中だ。

▶21世紀の寓話が問いかける持続可能な希望

ラストシーンで美咲が屋上に設置したスピーカーから流れる「再生不可能と思われた歌声」が、街全体を包み込むとき、観客は物理的な音波ではなく「記憶の共振現象」を体験する。
震災から10年経った今、監督が映画内に散りばめた「破片からの再構築」というテーマは、コロナ禍を生きる私たちに新たな意味を投げかける。あの日失ったものは、実は別の形でずっと身近にあったのではないか──。

【架空UGC】
@音楽泥棒｜「廃墟で聴くYMOリミックスに2020年代の私が刺された！荻上監督のセンスは10年先を歩いてた」
@昭和レトロ研究所｜「カセットテープの回転数と心拍数が同期する描写、あれは科学的に正しいんです」
@映画療法士｜「吃音のクライアントに『亮がメモ帳をひらくシーンだけ観せたら』と勧めてます。言葉以外の表現の豊かさに気付くきっかけに」

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